第1章-2
旧甲子園ホテルは、第一阪神国道(二号線)の武庫大橋西詰北側、武庫川の土手に面した風向明媚な屋敷街に森を伴う広大な一角を占める。
昭和の初め(1930年竣工)、帝国ホテルや阪神電鉄の出資によって建てられた超一流のシティリゾートホテルで、当時は「西の帝国ホテル」と称されたそうである。それもそのはず、建物も旧帝国ホテル(玄関部分のみ博物館明治村に移設)に大変よく似ている。
旧帝国ホテルは、二十世紀を代表するアメリカの大建築家、フランク・ロイド・ライトの作品である。そして旧甲子園ホテルは、その日本人の愛弟子、クリスチャン建築家遠藤新(あらた)の作品なのである。師の手法を完全に自家薬籠中のものとした遠藤は、「ライト式」と呼ばれるスクラッチタイルと大谷石の幾何学的様式に日本的なモチーフを加味し、素晴らしいホテル建築を実現したのだ。石材として大谷石より強度の高い龍山石を用いているため、築後七十年以上が経過した現在でも風化風蝕の害をあまり受けていない。内部や外壁に、打出の小槌のレリーフが多く見られる。
この建物、ホテルとしては不幸な道を歩んだ。第二次大戦が始まると海軍病院として接収され(野坂昭如氏の傑作「火垂るの墓」の中にも海軍病院として登場)、敗戦後は進駐軍の将校倶楽部としてしばらく用いられた後は長く廃墟として放置されていたのだ。
その後学校法人武庫川学院が政府よりこれを買い取り、庭園も含め忠実に旧状に復し、現在は大学院やセミナーハウスなどとして大切に用いている。とても意義深いことである。西宮市の文化財にも指定されている。平日午後四時までは自由に見学できるので、少しでも建築や阪神間の都市文化に興味のある人間にとっては必見である。
見れば見るほど、素晴らしい建物である。是非に宿泊したいものだと思う。アメリカなどでは、大学の観光学部に付属する実習用のホテルがよくある。武庫川女子大学も観光学部を設置するか観光専門学校を設立し、ここを実習用ホテルとして活用すればどうだろうか?
通年営業しなくても、年間数ヶ月の営業でもいい。実現すれば夢のような話なのだが・・・・・・。
左:旧フロントと事務室を仕切るガラスレリーフ。打出の小槌の図案である。
中:ロビー西脇の間の暖炉。
右:ロビーの大シャンデリア。
左:北側前庭から東翼客室棟を見上げる。
中:南側庭園より中央部を見る。
右:西翼一階南テラスにある打出の小槌をモチーフにしたレリーフ。